物価高とインバウンド旋風の箱根でなぜ独走するのか?老舗「一の湯」が2026年に突きつける温泉宿の革命
一 の 湯 箱根が今、国内旅行者の間でこれほどまでに熱烈な再評価を受けている背景には、過熱する観光地価格への静かな抵抗がある。1泊数万〜十数万円のラグジュアリー路線が当たり前になりつつある近年の箱根において、寛永7年創業の老舗が貫く「手の届く贅沢」は、単なる安売りとは一線を画す。渓流のせせらぎが耳を打つ塔ノ沢から仙石原の静寂まで、歴史の風格を漂わせながらも、旧態依然とした温泉旅館の因習を痛快なまでに壊し続けている。
箱根湯本駅の改札を出ると、大型スーツケースを引く外国人ツーリストの波が目に入る。そんな喧騒を横目に、手慣れた様子で早川沿いの小道へと足を向ける日本人リピーターが指名買いするのが、ほかでもない一 の 湯 箱根の宿群だ。肩肘張ったおもてなしの押し付けを削ぎ落とし、良質な湯とプライベートな時間を適正価格で手に入れる——そんな現代人の本音に、この名門はあまりにも的確に応えている。
1630年創業のDNAと「脱・高級化」という逆張り戦略
旅籠として産声を上げたのは1630年。徳川家光が天下を治めていた時代から、湯治場として旅人の傷を癒やしてきた。だが、この宿の真骨頂は「伝統の墨守」ではなく、むしろ徹底した破壊と再定義にある。
バブル期以降、多くの名門旅館が高価格帯の懐石料理や過剰な接客サービスへと傾倒していったのに対し、一の湯は正反対の道を歩んだ。仲居の部屋案内を省き、食事のオペレーションを見直し、宿泊客が「本当に払いたい価値」だけに絞り込んだ低価格高品質モデルを構築。2026年の今、国内外のインフレで宿泊費が高騰し続ける箱根において、この創業精神に裏打ちされた合理主義が、かつてない説得力を持って光を放っている。
登録有形文化財「塔ノ沢本館」で味わう、時を止めたような渓流露天風呂
一の湯グループの象徴といえば、何と言っても早川の渓谷に張り出すように佇む「塔ノ沢 本館」だ。大正から昭和初期にかけて建て増しされた木造4階建ての数寄屋建築は、国の登録有形文化財にも指定されている。
軋む廊下、磨き上げられた手すり、大正ガラス越しに揺れる青葉。現代の鉄筋ホテルでは決して再現できない陰影の美しさがそこにある。名物の大浴場「金魚風呂」や渓流沿いの露天風呂に身を沈めれば、無色透明の柔らかなアルカリ性単純温泉が肌を包み込む。川の轟音と森の匂いに包まれながら、かつて文豪や旅人たちが眺めたであろう景色と同化する感覚は、1泊数十万円のデザイナーズ旅館でも味わえない贅沢だ。
愛犬家とソロトラベラーが熱視線を送る理由——多様化する滞在スタイル
伝統建築を守る一方で、現代の旅行者が抱える細かなニーズを拾い上げるフットワークの軽さも見逃せない。特に「仙石原 すすき野原一の湯」をはじめとするモダンタイプの施設では、全室に温泉露天風呂を備えつつ、ペット同伴客専用フロアを設けるなど、独自の進化を遂げている。
「気兼ねなく一人で温泉にこもりたい」というソロトラベラーへの門戸も広い。かつて温泉旅館といえば2名以上が鉄則だったが、ここでは一人旅歓迎のプランが通年で用意されている。誰にも邪魔されず、好きな時間に部屋の露天風呂に浸かり、タブレットで読書に耽る。多様化する休日の過ごし方に、ここまで柔軟に寄り添う老舗チェーンは全国的にも稀だ。
スマートチェックインと夕食レスが生んだ「適正価格」の裏側
安さには必ず理由がある。だが一の湯の場合、その理由は「削るべき無駄を徹底的に排除した」という明快な技術革新によるものだ。
スマートフォンを活用した事前チェックインやキャッシュレス決済の導入により、フロントでの煩わしい待ち時間は最小限に抑えられた。さらに、旅館業界の常識だった「夕朝食付きの画一プラン」を解体。素泊まりや朝食のみのプランを充実させたことで、宿泊客は小田原の寿司屋や地元の居酒屋に足を運ぶなど、自由な夜を設計できるようになった。宿側にとってもフードロス削減と人件費の最適化につながり、結果として驚くほどの宿泊料金が維持されている。
2026年の湯守が挑む、地域共生とサステナビリティ
今や観光地の持続可能性は、旅行者が宿を選ぶ重要な基準になった。一の湯はエネルギー管理の面でも先駆的なアプローチを見せている。
豊富な自家源泉の熱を施設内の暖房や給湯に循環利用する取り組みや、アメニティの脱プラスチック化、地元神奈川・箱根周辺の食材を優先的に使用する地産地消の推進。歴史の重みにあぐらをかくことなく、環境負荷の低減に実直に向き合う姿は、感度の高い若年層やサステナブルツーリズムを意識する層からの厚い共感を呼んでいる。
激戦を制する予約のリアル——カレンダーの隙間を狙う実践的アプローチ
これだけの価値が揃っている以上、予約競争が激化するのは必然だ。週末や連休ともなれば、数ヶ月前から満室の文字が並ぶことも珍しくない。
確実に狙うなら、日曜宿泊や火・水曜の平日ステイが圧倒的に狙い目となる。テレワーク環境が整った客室も増えており、平日の午前中は部屋でリモートワークをこなし、昼休みにひと風呂浴びるという「日常の延長にある湯治」を企てる層が増えている。公式サイト経由の直販ベストレートをチェックし、キャンセルが出やすい宿泊日の数日前に照準を合わせる——そんな少しの工夫で、箱根最高峰の温泉体験はぐっと身近なものになる。 (出典: 一 の 湯 箱根(Yahoo!ニュース))